IHRP キックオフキャンプレポ

先日、相互後援契約を結んでいるNPO法人IHRPの運営する研究プログラムのキックオフキャンプにご招待いただき、取材をいたしました。

IHRPとは

大学生が中心となって運営されているNPO法人IHRPは、「社会課題解決のための研究」「異分野融合」「バックグラウンドに捉われない」をコンセプトに掲げ、毎年、全国高校生異分野融合型研究プログラムを運営されています。

その扱う分野の広さ、充実したプログラム内容から毎年定員を大幅に超す人気を誇っています。一連のプログラムのキックオフとなるのが今回お邪魔させていただいたキャンプ。今年のプログラムのスローガンは「青い、地球の、課題。」で、「青」に関わりのある研究に興味を抱いている中高生を募集していました。

7月中旬頃に選考が始まり、そこから今回のキックオフキャンプを経た後、大学教授など研究者の協力を得て研究を行い、権威ある国際会議、「サステナブル・ブランド国際会議」での発表を目指すという仕組みのようです。

プログラムの説明を聞くIHRP参加者たち

当日、昼の12時ごろに都内某所の開催場所に向かいました。開催場所はビルの中のキレイで大きな教室。後で聞いたところ、インターナショナルスクールの一室を借りているらしいです。

東京や神奈川、遠い所なら関西や四国まで多くの方がいらっしゃり、「バックグラウンドに捉われない」というコンセプトをここでも感じることができました。

僕が取材に行かせていただいたのがキャンプ3日目だったのもあり、参加者たちは既に親交を深めていたらしく、休憩時間に雑談したりしていらっしゃいました。

IHRPの運営さんにお願いをし、自己紹介をさせてもらいました。僕への目線が丸みを帯びた気がします。これで取材がしやすくなりました。

休憩時間と僕の爆笑自己紹介が終わり、午後のプログラムが始まります。

「いもづる」を行う参加者たち

参加者さんは何やら「食糧問題」や「環境問題」などの社会問題が書かれた大きな紙に小さな付箋をペタペタ貼っています。

ぴく 急にすみません。今は何をされているのですか?

参加者1 今は社会問題に対して研究とか活動を結びつけています。社会課題からいもづる式に付箋を貼っていくのでみんないもづるって呼んでますね。

なるほど、なるほど。そういうことなんですね。みんな和気あいあいと付箋を貼っていて楽しそうです。羨ましい。

次は運営の方に意図を聞いてみました

ぴく いもづる、見させていただきました。いもづるは何を目的にしてやられているのですか?

運営 いもづるの目的ですか。IHRPのキャンプの参加者はみんな何かしらの研究をしたくてきてます。でも我々がコンセプトに掲げているのは「社会課題解決のための研究」なので、ただ研究をするだけだと少し方向性が違うんですよね。なのでこのいもづるが、それぞれの研究と社会の繋がりを意識するいいきっかけになればと考えています。あとはこの時間で元々自分には興味なかった他の領域の研究や活動を意識して、自分とは興味関心が違う人と相互交流することで視点を広げてもらってもいいのかなと考えています。

ぴく なるほど。GSC(*1)みたいな研究系のプログラムの中でも社会課題とかを意識するためのプログラムだとIHRPさんの社会問題を意識するようにプログラムが組まれているのは結構あるあるだと思うんですけど、結構扱う社会課題がエネルギー問題とか食糧問題みたいなテクノロジー系に偏ることが多い気がしています。でも今回のIHRPさんのキャンプでは、社会課題がそういうテクノロジー系だけに集中せずに、人権問題だったり、ジェンダー問題、メディア問題だったりといった様々な分野に散らばっているなと感じました。

*1 GSC:グローバルサイエンスキャンパス、大学の研究室で中高生が高レベルな研究を行うことの出来るJST主催の長期間研究プログラム

運営 そうですね。IHRPが掲げているコンセプトの一つに異分野融合というのがあって、文系理系関係なく中高生の研究者が活躍できるようになればいいなと思ってるんです。

だから社会課題は文系理系関係なく選定しています。


IHRPの持つコンセプトを全ての根底にしてプログラムを構成する。この方法が徹底されていると感じました。様々な所に手を広げた結果、元々大事にしていたことやコンセプトをおざなりにしてしまうプログラムが多い中、IHRPはブレずに活動を広げることに成功しているようです。

いもづるの例を一つあげると、

社会課題:環境破壊によって地球温暖化が進行している

温暖化を引き起こしているのは二酸化炭素なので二酸化炭素についてひたすら調べてみる

どのくらいの量の二酸化炭素によりどのくらいの地球温暖化が進むのか調査を行う

このように、(マクロな)問題をその解決方法や実際に用いる手法といったミクロな視点に持ち込んでいくいもづるが多かったように感じました。

参加者はアイデアを出し合いながらそれぞれの観点をフル活用して議論を行い、よりよいものを作るために全力で取り組んでいました。

別の参加者の発表に耳を傾ける参加者たち

ぴく そういえば開催地の場所めちゃめちゃいい場所ですよね。広いし、立地も最高でしたし。

運営 ここは実は夏休みで休校になっているインターナショナルスクールの教室をお借りしているんですよ。活動にご賛同いただいておりまして。

ぴく スゴすぎる……。スポンサーさんも凄い企業さんが沢山いらっしゃいますし、IHRPの活動は社会的に認められているんですね……。


また、IHRPのプログラムで珍しいと思った点の一つに、運営が参加者の状況によってその場で話し合って予定を変更することがあります。

運営側は参加者の行動に基本的に口は出さずに見守っています。しかしながら、常に参加者にとってより有意義な時間となるように見守りながら全身全霊で考えているように見えました。

参加者からの意見を元にプログラム構成を変更することもしばしば起こるらしく、実際に話し合いの結果、いもづるの時間は大幅に延長されました。


運営 話を聞いてみると、面白いことに、社会課題から活動や研究を考える子と自分の活動を社会課題にどうにか適用しようとしている子とで分かれているんですよ。あと、自然を第一に考える子と人間を第一に考える子とでも分かれている。

もちろんどっちの方が優れているとかはないと思います。

でも、自分のタイプや傾向を知ることができるのもいもづるのいい所ですね。

ぴく なるほど。自分がどのような人間か知ることによって、自分に足りない視点や考えをより吸収できるようになるんですね。

運営 そういうことです。やっぱり異分野融合のメリットは、それぞれの研究に新たな視点を向けて考えることで、よりよいものが出せるようになるという所にあります。

このいもづるは、そのための触媒として必要な作業なんじゃないかなと。

いもづるをしながら話し合う参加者たち

ぴく 理解しました。そういえばIHRPの参加者さんって元々研究とかをされている方が多いんですかね?

運営 そうですね〜、やってるのは半数ぐらいなのかな?SSHみたいな学校のプログラムで研究をしている人もいますし、GSCに入ってやってる人もいます。ちなみに私たちは文系の研究をやりたい人も受け入れてますが、そういう人たちはどこにも入ってないことが多いです。

ぴく なるほど。島根大学GSCとかは文系も受け入れてるみたいな話を聞きましたけど、中高生で研究できるプログラムって理系しかいない所が多いですからね。中高生で文系の研究してる人って少し肩身が狭そうなイメージがあります。


その後、沢山の参加者に話しかけてみたところ、椅子の構造について研究している方や生物活性分子の研究をしている方、千葉県の観光の可能性について研究している方だったりと、文理問わず色々な分野に深い知識と興味を持って行動している中高生が参加しているようです。

また、ところどころ参加者同士が英語を交えて会話をしている場面も見かけました。僕の低い英語能力により一切聞き取ることが出来なかったのですが、とにかくカッコよかったです。母語として英語を使って意思疎通、憧れます。非常に国際色豊かで、このようなところでもIHRPの多様さが現れているのかもしれないと感じました。

代表がなぜかけん玉とあやとりをしている、リラックスした雰囲気で進んでいくプログラム。そんな雰囲気の中、僕の知らない分野の知らない言葉を使って社会問題についての議論を深めていく参加者たち。

このアクティビティを最終的にどうするのか?どうやってまとめていくのか?といった方向性を決めるためにリーダー(ファシリテーター)を設定して話し合ったりと、参加者自身がこのプログラムを良いものにしようと自主的に動いていました。ここでも運営は見守るだけで、話し合いにはノータッチ。ちなみにリーダーに選ばれた参加者はけん玉が上手かったです。

話をまとめるリーダー2名

話し合いの結果、増えていく付箋。文系理系問わない相互交流による気づきから様々なアイデアが生まれ、もっともっと多様な分野のアイデアが化学反応を起こし始めます。

離人症(精神疾患の一種)に代替食品、受動喫煙、カーボンサイクル、コールドコンポスト、電気自動車など様々な分野に渡り議論を行っていました。こういった議論の場では自分のアイデアを通すために感情的になったり言葉が強くなったりしがちですが、参加者さんはみな一様に情熱を持ちながらも落ち着いていており、理性的で建設的な議論を行っていたところが素晴らしいと思いました。発言の端々から相手へのリスペクトが感じられるのです。この姿勢に、僕も学ぶべきものがあると思いました。

ここで運営さんに今回のキャンプ後の流れについて聞きました。


ぴく この後参加者さんたちはどうなるんでしょうか?実は研究室に配属されるってことしか知らなくて……。

運営 まずは、キャンプ後に研究計画書を提出してもらいます。

ぴく 研究計画書の内容で選抜したりとかはあるんですか?

運営 そういうのはないですね。希望する分野の研究室がIHRPの提携先にある場合は、おおむね研究室で学ぶことができます。最初の選抜に通っていれば。

ぴく なるほど。それはいいですね。二次選抜とかあると大変ですし。


それぞれの研究計画書を元にIHRPが協力を受けている研究室に配属を行い、それぞれ研究を行うそうです。個人の研究が基本ですが、何人かのグループで共同研究を進めているケースもあり、適宜対応しているとのことでした。

いもづるの後はテーマトーク。これが合宿終了前最後のプログラムです。

テーマはこのキャンプが終わった後何をするのか、6ヶ月後に出したい研究の成果はどんなものかという2つ。しばらくした後、何班かに分かれて発表しあっていました。認知心理学の研究をしたい参加者が宇宙開発について質問をしていたりしており、学際的な空間が生まれていました。

これで5日間に渡るキャンプは終了となりました。帰り道、参加者の子に「取材、なんか楽しかったです。連絡先交換しませんか?」と言われたのが嬉しかったです。

直前の連絡となったにも関わらず、二日間つきっきりで密着させていただき、非常に面白い取材ができました。改めまして、IHRPさん、途中参加の僕に温かく接してくれた参加者のみなさん、本当にありがとうございました!

集合写真