1つのギギには2つのカタチ…? 吉郷飛翠さん研究インタビュー
ギギという魚の分類学的研究を個人で行っている吉郷飛翠さん。これまでの研究、魚類研究の魅力、これからの展望についてインタビューを行いました。
ソルティーヤ 研究内容について教えてください。
吉郷 まず、広島県の太田川水系にはギギというナマズの仲間の魚が生息しているんですね。
吉郷 現在では一つの種とされているのですが、形態的に主に背びれの形に違いが見られるんですよね。その差によって別種として分類できるのかどうかという研究をやっています。
ソルティーヤ なるほど。別の種というのは分布というか、明らかに違いが見られるということですか?
吉郷 いえ、分布は重なって同じ川から取れるんです。ただ、同じ川から2つの種類が取れて分布は異なっているのかもしれないし、たまたま太田川水系というのが重なっているというだけなのかもしれないし、そもそも別種ではなくて形態が成長によって現れるということかもしれないんです。
ソルティーヤ 今のところ分布は同じみたいだけど、背びれの形が違うものがあるということですね。
吉郷 そうです。実際は太田川(*1 広島県を流れる一級河川)水系しか調べられていないので、正直はっきりしたことは言えないというのが今の問題点です。
ソルティーヤ その研究の結果はどのようになりましたか?
吉郷 各部位を計測しまして、この結果、有意に違いは見られるだろうと。有意に差異は見られるものの、遺伝子的に調べたわけではないので別種だと明言していいものではないということが分かりました。少なくとも形は違うよっていうのが言えた段階というわけです。
ソルティーヤ その形が違うっていうのは具体的にはどのような違いが見られるのですか?
吉郷 背びれの一番高い部分とトゲの部分があって、この間が長いやつと短いやつがいるよねという話です。一番わかりやすい違いはそこですね。その他に、ヒレなんかも形を見ると全く違うねっていうのも。
ソルティーヤ どのようにして有意に違いが見られるという結論を導き出したのですか?
吉郷 まず、各部分の長さを測り、計測した各部位のデータを入力して、どんどん比とそれに対する体長とトゲと背びれの長さの比を記入していき、統計を出して有意に違いが見られるというのは、まず言えました。ここらへんは数学を使います。
ソルティーヤ なるほど。その場合、沢山のサンプルを対象にする必要がありますよね。調査って結構大変だったのではないでしょうか?
吉郷 大変でしたね、それは。まず第一の問題として、土日は自分があまり時間を使えないというのがありまして、色々勉強とかをしなければならない。だから平日に魚獲りへ行くしか無いんですけど、放課後になると自分も塾があったりと忙しいので、早朝に行くんですね。
ソルティーヤ 早朝ですか
吉郷 早朝、4時くらいに川へ行って獲ってたんです。3時半くらいに起きて支度して、川に行って網で取っていくみたいな感じの調査をしていました。
ソルティーヤ めちゃくちゃ大変ですね
吉郷 そうですね、この後学校もあるので大変でした。
モモ 少し最初の話に戻っちゃうんですけど、一回の採集でどれくらいの量のギギが取れるんですか?
吉郷 何時間やるかにもよるんですけど、1時間やって2、3匹は取れるかなって感じです。玉網っていう漁具を使って魚を足で追い込んで捕まえてます。
吉郷 そしてギギを捕まえた後、これが一番大変なんですが、標本にした後に計測をしなくちゃいけないんです。どんどん長さを測って、エクセルにデータ入力していくという。一番大事な作業でもあるんですけど、単調な作業なのでつまらないというか。正直、面白みにかけるなっていうのがあって。
ソルティーヤ 大変ですよね
吉郷 最終的にやりとげられたので良かったです。
ソルティーヤ ありがとうございます。では、種が分かれているかもしれないという研究において、もし本当に種が分かれていたら、どのような影響があるのでしょうか?
吉郷 こういう違いが見られましたので、これを別種としますというのは、新種として記載されるということなんです。もし今研究しているのが別種だと判断された場合ですけど。その場合は、新しい種が発見されたということなのでインパクトがあるかなと。他に学術的なものとなると、全国に散らばっているギギとして使われている標本があるんですけど、それが本当にギギなのか、それとも新しく分類された別種のものなのかというのを確認作業しないといけないという。博物館とかにあるような標本は全部確認しないといけないですね。
ソルティーヤ なるほど、新種が生まれるというのは、今ギギとしてまとめられていた1つの種類が枝分かれして2つの種類になるということなんですね
吉郷 そうですね。
ソルティーヤ 今研究をしていらっしゃる機関はどちらなんでしょうか?
吉郷 それはもう完全に個人というか。
ソルティーヤ 個人なんですね
吉郷 学校から先生に頑張ってねと言われるくらいはありますけど、別に部活に所属してというわけではないです。
ソルティーヤ そうなんですね。個人となるとことさら行動力とか魚への興味というのが必要になると思うんですけど、魚に興味を持つようになったきっかけというのを教えてください
吉郷 これはやっぱり自分も個人でやれる理由にもなるんですけど、自分の父親が魚の研究者だったのが大きいですね。魚をしている人間なんで、そこに生まれたんで、なるべくしてなったというか。
ソルティーヤ 魚の申し子って感じですね
ソルティーヤ 今なさっている研究で面白いポイントやアピールポイントを教えてください
吉郷 面白いポイントですか。やっぱり身近な家の近くの川にこういう新種になるかもしれないというか、こういう形態の違う魚が実はいるんだというのが面白いポイントかなと思ってます。
ソルティーヤ ありがとうございます。それにしても新種が見つかるってすごいことですよね。私はあまり生物系の研究をしているわけじゃないので、詳しくはないんですけど
吉郷 もちろん新種を発見することはすごいことだとは思うんですけど、その労力はもっとすごいですよ。別の研究よりも多分すごいことになる。過去の論文を全部見ないといけない。今だってギギに関するものとか。古いものだとシーボルトとか書いたスケッチとか見るわけですし。古文書とか漢文で書かれているものを見ることもあります。
ソルティーヤ そこまでやられるんですか
吉郷 漢文で書かれるのはちょっと脇に添えたものなんですけど。ギギのルーツというか一番古い文献がどこに載っているの?みたいな。ちょっと調べています。多分普通はシーボルトの年代から見始めるんですかね
ソルティーヤ そんなに昔なんですね
吉郷 そうですね。
まず別種だって証明が難しいんですよ。
最近になってからなんですけど、遺伝子的な違いみたいなものもクリアしないといけなくて。今までの、昭和から平成初期にかけてのように形態的な形だけでこれ別種だねとすることは不可能というか、ほとんど無理になってきてるんです。
ソルティーヤ 成程。別種だと認められるためには遺伝子の違いを示さなきゃいけないということをおっしゃったと思うんですけど、となると今後遺伝子の違いを示すための研究を行うつもりでしょうか?
吉郷 それはもうちょっと先ですね。現在のところ、一つの河川からしかデータを取ってないんで、とにかくもっと他の河川から取らないと。
ソルティーヤ でも太田川だけでも違いが見られたということで、すごく面白いことだと思います。広島の今調査していらっしゃる、今のところ一種類であるギギという魚自体は、広島以外にも生息しているんですか?
吉郷 はい。二種類いる可能性があります。
少なくとも四国には、四国と広島にはいるだろうと。
モモ なるほど。ところで、なぜ数ある魚の中でギギに注目されたのですか?
吉郷 ギギに着目したのはたまたまですね。
以前、太田川で魚類の採取をしていた際にたまたま、現在研究している背鰭(せびれ)の違いを見つけたんです。この違いについて既知の報告が見つからなかったので研究を始めました。
ギギについての魅力ですが、図鑑に書いてあることを少し掘り下げてみると、全然情報がないんです。なんなら図鑑の情報が一番詳しいまである。
だからこそ、調べがいがあるというのは一つの魅力かもしれません。
モモ 元々魚類に興味があって、そこから偶然ギギに興味を持ち始め、研究を始められたんですね。今後の研究の展望についてなども、少し詳しくお聞かせいただけますか
吉郷 まずはそうですね、ちゃんといろんな広範囲からデータを取っていきたいなって思ってます。あと時間制限が自分の場合あるんです。今、高校2年生で、3年生になったらちょっと研究の時間が取れないなっていうのがあるんで、それまでにできるだけデータを集めて、あとは大学で持ち越すと、大学に行ってやることになるのかなっていうのがあります。
元々、まとめて2種類いるって言いましたけど、この2種類のうち、1種と最大のギギは、分布としては九州北部から近畿地方のほうまでいるんですけど、そのどこが境目になっているのかっていうのは知りたいです。例えば、広島の太田川より東側がノーマルのギギがいるのかもしれないし、それより西は新しく、形態的に違うギギがいるのかもしれないよね。その境目、どこで違いが出るのかっていうのが見たいです。
モモ ありがとうございます。今まで研究のことについて、いっぱい聞いてきたと思うんですけど、研究以外に他に興味のあることとか、趣味とかはありますか?
吉郷 趣味は、意外に思われることも多いんですけど、パフェ巡りです。最近ハマってます。勉強の息抜きで喫茶店とか行ったりするっていう感じですね。
ソルティーヤ 今高校で研究していらっしゃると思うんですけど、将来は研究関連の職に就きたいとは考えてらっしゃるんですか?
吉郷 そうですね。魚関連の研究をやりたいなって思ってます。今と似た様な研究ができれば面白いなと考えています。
モモ 大学もそっちの方の分野に進むという感じですか?
吉郷 そうですね。大学の生物系、具体的に言うと魚類分類学になるんですけど、それをやってる先生のところに行きたいなという感じですね。
モモ 今の研究で分類学に近いものをやってらっしゃると思うんですけど、新しい種が発見できるかもしれないみたいなワクワクっていうのがあるんでしょうか?
吉郷 ワクワクというか、分類学の本来の目的って、新しい種を定義するための学問なんです。他の人の論文とか見ていても面白いのが、割とコロコロ分類が変わったりするんですよ。例えば、元々A属というのがいたのに、それがB属に統合されたりとか、そういうのが結構ワクワクするというか、パズルを解いてるみたいな、そんな感じがするんですね。他人がパズルを解いているのを見ているというか。こう考えるんだみたいな、みたいなのがワクワクします。
ソルティーヤ すごいですね。魚というか生物系というと分類学だけじゃなくて、生態を調べるとか、そういう研究もあると思うんですけど、分類学に興味を持つようになったきっかけというのがあるんでしょうか?
吉郷 生態とかも割と興味ありますし、環境保全学とかいろいろ生物に関することであれば割と何でも興味ある。それでも分類学をやっている理由は生物学の基礎に分類学があると思っているからというのがあります。分類して名前がないと何もできない。例えばトマトの遺伝子の一部を薬にしようという動きがあったとしても、そのトマトに名前がないと論文に書きようがない。名前を決める分類学というのは、やっぱり楽しいんですよね。直接的ではないんですが一番役に立つ研究なんじゃないか、巡り巡ってすごい役に立つ研究なんじゃないかと思います。
ソルティーヤ Larva06を読んでいる中高生研究者や研究を志す人たちに何かメッセージはありますか?
吉郷 まず一番に言いたいのは、正直研究というのは大学に入ってからできるのに、今、中高生のうちになぜ研究をするのかという意義を見つけた方がいいかなと思ってます。中高生である今だからこそやれることを見つけて、それを大事にしてほしいなと思います。
ソルティーヤ ありがとうございます。本日のインタビューでは、太田川のギギの分類の研究についてお話を伺いました。本当にありがとうございました。
吉郷 ありがとうございました。