失われた刀が持つ可能性を追いかけて…!池辺莉々さん研究インタビュー

消失してしまった日本刀の復元を目指して、刀に関する様々な情報を調査する池辺さん。池辺さんが行っている研究や刀の持つ魅力、今後の目標についてインタビューを行いました。

フィゲロア こんにちは。本日はよろしくお願いいたします。

池辺 よろしくお願いします。

なのめーとる。 池辺さんは、分野的には歴史学にあたる研究をされているということですが、歴史学には様々なアプローチがありますよね。池辺さんはどのようなアプローチをされているんでしょうか?

池辺  私は「モノ資料学」という方面からの研究をしています。モノを資料として扱ったときに、例えばモノから読み解く歴史、モノから見る歴史など、書物や文字だけじゃないところから歴史を読み解いています。

フィゲロア では、池辺さんが行っている研究について教えてください。

池辺 刀剣を中心とした文化財の復元に注目し、一度消失してしまったものをどう復元していくかを考える研究、復元のために資料を鮮明にするための研究をしています。

なのめーとる。 ありがとうございます。具体的にはどのような研究活動をされていますか?

池辺 私が今現在行っている研究は3つあります。

1つ目は、東京都大田区の穴守稲荷神社にあったとされる三条小鍛冶の太刀が実際にどのような太刀だったのかを研究しています。長さや誰が作ったかなどの資料は残っているのですが、なぜ消えてしまったのか、それが穴守稲荷神社に来た理由は何かなどを調査しています。

2つ目に、復元をするというのはどういうことなのかを研究しています。具体的には、復元しても全く同じものが作れるわけではないので、それを博物館に置く意味はあるのか、刀の価値はどこにあるのか、名前にあるのか、もし同じ復元したものが同じだけの価値があるならそれは名前だけなのかなど、美術学的な観点から復元資料に対するアプローチをしています。

3つ目は、石田散薬に関する共同研究です。石田散薬は、新撰組の土方歳三に関係する薬で、以前は新撰組で使われていた可能性もあるとも言われていますが、昭和の薬事法の改正によって今は販売されていません。しかし、近年の大河ドラマをはじめとする新撰組ブームで石田散薬関連のグッズ化や製造体験が行われるなど、注目を浴びている薬でもあります。そのため、歴史学的視点と薬学的視点の双方から検討する研究をしています。この研究は、私が今まで中心として扱ってきた刀ではなく薬の資料ですが、具象化することによってより日の目を浴びる歴史的資料として共通点もあると考えています。

なのめーとる。 ありがとうございます。普段はフィールドワークや文献調査を中心に研究活動を行われている感じでしょうか?

池辺 そうですね。勿論、インターネットや本からも情報をたくさんいただいています。しかし、何よりも大切にしているのは実際に見てみることです。

特に、刀は一振(ひとふり)ごとに違うだけでなく、同じ刀であっても、見る場所や見る時間によって表情が異なることがあります。

実際にいろいろな展示を見ることで、その刀がどう過ごしてきたのか、どのように扱われてきたのかをその場で感じることを大切にしています。

太刀 銘 三条

※東京国立博物館所蔵「太刀 銘 三条(名物 三日月宗近)」

出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/F-20103-1?locale=ja

フィゲロア では、研究の目的について教えてください。

池辺 消失してしまったもの自体を全く同じものとして元に戻すことは不可能ですが、可能な範囲で資料を復元することで、「そこに刀があった」という事実を伝え、文化や伝統を伝えたいと考えています。

フィゲロア 実際に刀を復元していくための研究では、どのような点に一番苦労されていますか。

池辺 復元にあたっては、その資料を所有していた人や現在所有している人の意向が大きく関わってくるため、その点を一番考慮しなければなりません。

また、その刀に関する資料を探すことも難しいです。とりわけ、戦争などで資料が燃えてしまったり、どこかに資料を押収されたりといった場合は、関連する資料を探すことがとても困難になります。そういった場合では、「そこに実際に刀はあったのか」というところから研究を始めなければなりません。

フィゲロア なるほど、ありがとうございます。では次に、池辺さんがこの研究を始めたきっかけを教えてください。

池辺 私は小学生の頃から、新撰組※1 の沖田総司という人物に強く興味を持っていました。

彼は、現在は小説やアニメーションで多く知られていますが、実は彼の生涯の実態についてほとんど資料は残っていません。そのため、彼の刀について調査することで、沖田総司の実態を明らかにしたいと考えました。

しかし、沖田総司の刀は消失してしまっていました。その際、消失した刀に関する研究に興味を持ったのがきっかけです。そのため、いつかは沖田総司の刀について調べることが目標ですが、今はその前段階として、他の消失した刀について研究しています。

※1:「新撰組」は、江戸時代末期に非正規組織として結成された浪士隊である。近藤勇や土方歳三、沖田総司などのメンバーは、近年はアニメや漫画、ゲーム等にも登場しており、若者らからの人気を集めている。

フィゲロア なるほど。刀から人物像を探る、という視点は興味深いですね。では、刀の研究にはどのような魅力がありますか?

池辺 刀はそれぞれに個性があるため、飽きることがありません。

一振の刀は「その水、その土地、その空気、その火、その鉄」によって生み出されたものです。それぞれさまざまな要素が合わさって作られたものであり、二度と同じものは作れません。

そういったことを念頭に置いて、刀そのものや資料をひとつひとつ見ていくと、失われた刀であっても表情のようなものが見えてきます。

大きさや作風から、誰が使っていたのか、いつの時代に作られたのかなど、さまざまな情報を読み取ることができます。刀には物語性があり、ひとつひとつの個性がとても強い分野です。

なのめーとる。 刀が持つ物語への愛が伝わってきて、とても素敵だなと感じました。普段、研究活動で全国さまざまな場所に行かれている様子をSNSで拝見しているのですが、その中で何か発見はありましたか?

池辺 私が知る限りでは、最近は、一つ一つの展示品を主役とするような展示の仕方が行われている場所が増えているような気がしています。そういった展示では、展示を作っている人がその展示品をどう見せたいかという点が伝わってきます。

刀って、「どう見ていいかわからない」とか、「敷居が高そうで分からない」という方がたくさんいるジャンルだと思うんですけど、「気軽に見たい」と思わせるような展示の作り方だと、思わせられました。

私もいずれ人に刀を見せられるような機会を得られるのであれば、そういったたくさんの人が見て、見たいと思えるような展示をしてみたいなと思っています。

なのめーとる。 ありがとうございます。刀を見ると同時に空間も見ていて、展示の仕方も見ている感じでしょうか?

池辺 そうですね、同じものを展示するにあたっても、担当する学芸員の方が違ったり、施設が違ったりすると、見せる場所とか、そのものを見せたい理由が違ってくるので、毎回違う驚きをもらっています。

本当に面白くて、何回でも見に行けるんです。

私が特に驚いたのは、展示の前半と後半で、同じものを展示していても、裏側と表側を展示していた回です。

古刀(ことう)※2 は表と裏で、刃文や傷等が異なります。その刀の表情が表と裏でこんなに違うんだということを感じ、新しい鑑賞の仕方を見せつけられたことで、新たな展示の可能性に気付くことができました。

※2:「古刀」とは、平安時代中期から安土・桃山時代末期までの間に制作された、反りのある日本刀のことを指す。

フィゲロア ご自身は刀の研究以外にも趣味があるとのことですが、その点も教えてください。

池辺 私の趣味は、芸術や美術の鑑賞です。特に博物館巡りが好きで、実際に資料に触れることがとても好きです。また、私は刀の研究を始めたきっかけから、刀の鑑賞も趣味になりました。

また、博物館の図録が好きでたくさん集めています!コレクションの一部にはそれを知って誕生日などに他の方からいただいたものもあります。

池辺さんの図録コレクション

※池辺さんの図録コレクション。

池辺さん「改めて見ると絶景ですね!いただいたものにも感謝して一冊一冊大切に読ませていただいています!」

フィゲロア お話ししてくださった研究以外に何か活動はされていますか?

池辺 博物館でお手伝いをしていて、博物館の仕組みなどに携わっています。

フィゲロア 凄いですね。具体的にはどのようなことをされているのですか?

池辺 その博物館では、歴史学だけではなく、天文学などさまざまな分野のお手伝いをさせていただいています。博物館では、分野ごとに展示の特徴や見せ方が変わってくるので、今まで受け身で見ていたものを、「展示がどのように作られていったのか」という視点からも見られるようになりました。これは私にとって「自分もこのように魅力を伝えていきたい」ということを考えることのできるとても大切な機会です。

フィゲロア 次に、将来の夢について教えてください。

池辺 将来の夢は、刀やモノ資料に関わる活動を続け、モノ資料を伝えていけるような研究を続けていくことです。最終的には、沖田総司がどんな人物だったのかを明らかにしたいと思っています。しかし、それ以外にもまだ眠っている魅力的なモノ資料がたくさんあると思うので、それらをより鮮明な形に残していきたいです。

フィゲロア ありがとうございます。読者に対して何かメッセージをお願いします。

池辺 Larva06の読者の中には理系の方が多いのではないかと感じています。しかし、どの分野でも共通する研究の楽しさがあると思うので、これからもその楽しさを大事に、お互いの分野で研究に関わっていけたらいいなと思います。

また、私の研究も皆さんに知ってほしいし、私も皆さんの研究を知りたいと思っています。

もし、これを読んで興味を持っていただける方がいれば、いつかお会いしたいです。

なのめーとる。 ありがとうございます。最後に池辺さんの方から、これだけは伝えておきたいといったことがあれば教えてください。

池辺 刀は良いぞという一言に尽きます(笑)。

フィゲロア ありがとうございます。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

池辺 ありがとうございました。

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