大好きなクラゲがムチンを分泌するしくみを解明したい……!橋本沙和さん研究インタビュー
幼い頃からクラゲに惹かれ、現在はクラゲがムチンを分泌する理由やしくみ、クラゲの再生能力について研究する橋本さん。橋本さんの研究の内容やクラゲの魅力、趣味、展望についてインタビューを行いました。
ぴく 本日はよろしくお願いします。まず、専門分野について教えていただけますか?
橋本 専門分野は生物学で、クラゲについての研究をしています。
ぴく 次に、研究内容について説明をお願いできますか?
橋本 クラゲの持つ、ムチンという有用性が高い物質をクラゲが分泌する理由としくみについて、また今はクラゲの再生能力について研究をしています。
ぴく ムチンには具体的にどんな良いところがあるのでしょうか?
橋本 ムチンにある抗菌作用があげられますね。例えば、インフルエンザのウイルスに結合してウイルスの働きを弱めるっていう作用があったり、水を綺麗にするっていう作用とかいろんな作用があったりするんですよね。ほかにもアレルギー性疾患の改善にも使われていたり。ちょうどコロナの時期だったということもあり、マスクで肌荒れをするという話を聞いて、肌の弱い方はムチンを配合したマスクを使えたらいいのではないかと思ったのも研究のきっかけの一つですね。
ぴく クラゲのムチンがアレルギー対策に使えるというのはすごいですね。でも、どうしてそんなにも有用性が高いのにあまり研究されていないんでしょうか?
橋本 そうですね。それは、抽出量が少ない、抽出が大変、といった課題があるからです。抽出も従来の方法ではクラゲを殺すしか方法がなかったんですよね。
ぴく なるほど。そういえば、クラゲを殺すしかムチンを抽出する方法がなくて、かわいそうだという話を前におっしゃっていましたよね。
橋本 はい。実験では、クラゲに刺激を与えて、海水からムチンを抽出しました。刺激には、電流、物理的な刺激、紫外線、LEDライト、餌の量などで試してみました。
ぴく へー、色々あるんですね。
ぴく クラゲに興味を持ったきっかけはなにかありますか?
橋本 小学校のときにプランクトンを採取するイベントに参加していたこともあり、もともとプランクトンは好きだったんですけど、本格的にクラゲを好きになったのが、小学3年生か4年生くらいですね。
ぴく クラゲにはかなり小さな頃から興味があったんですね。その後、研究へも興味を持ったということですか?
橋本 そうですね。中学3年生の時にマリンチャレンジプログラムを知りました。そのときに最初は魚の研究をしようと思いましたが、やっぱり自分の好きなクラゲの研究をしたいなと思い、クラゲの研究をすることにしました。その流れで、ムチンの有用性を知り、研究を始めました。
ぴく 昔から好きなものの研究をやれるのは素敵なことですよね。クラゲの魅力はどこにあるんでしょうか?
橋本 クラゲの魅力は、まずは、見た目の美しさにあると思います。あとは、ムチンなど有用性の高い成分を含んでいることとか、人間は肌の水分量が少ないのに、クラゲは90%以上が水分でできていることとか、5億年前から姿も変えずに生きていることとかです。
もちろん見た目の美しさも好きですが、見た目だけではなく、中身の現象が面白いと感じて研究を始めました。
ぴく 確かに話を聞く感じ、すごく面白そうですね!ただ、どんな研究でも、苦労するところはありますよね?
橋本 そうですね。例にもれず、私も苦労したことがあって、まずはマリンチャレンジプログラムが一人だと応募できないということですね。
ぴく えぇー。最初から結構キツいですね……。
橋本 一緒に研究する友達を探すっていうところから始まって、研究の知識が全くゼロなうえ学校の先生とかも特にクラゲの知識がないので教わることができなくて……。
ぴく うわぁー。それって結構きついですよね。
橋本 実はこれまだ序の口で、一番大変だったのはクラゲの飼育ですね。1週間に1回、水槽の水を全部入れ替えなきゃいけなかったり、エサが孵化してくれないっていうことがありました。他にもそもそもこういう研究自体あんまり前例がなくて、調べてもあまり出てこないとか……。
ぴく エサが孵化?
橋本 はい。アルテミアというエビの幼生を使用しています。クラゲはプランクトンを食べるので、アルテミアの卵を海水に入れて孵化させます。水温によって孵化しないこともあるので大変です。
ぴく 聞くだけでも大変なのが伝わりますね。今後の研究目標はなにかありますか?
橋本 さっき話した通り、今はクラゲの自己再生能力の研究もしているので、その研究をこれからの飼育につなげられたらいいなと思ってます。
ぴく この研究を引き続き発展させていくという感じですかね。
橋本 そうですね。ムチンの研究については、まだ自分的に研究としてできていないところがたくさんあるんです。
ぴく なるほど。
橋本 例えば、ムチンを抽出しても、それが自分の飼育につながらないというところや、最もよい抽出方法をを確定するための研究、他には、もっと抽出量や分泌量を増やすための方法を調べたりですね。
ぴく 抽出方法によってムチンの分泌量に差はあるんですか?
橋本 ムチン量に差はありませんが、安定性に差があります。例えば、紫外線では安定して同じ数値が出ますが、電流を流す方法では最初は高い数値が出ても、徐々に低くなっていきます。
あとこれは目標の一つなんですけど、抽出はクラゲにストレスがないようにする手法がいいんじゃないかなって思っています。
ぴく やっぱり、クラゲに優しい方法がいいですよね。
では、ここまで研究のことについて、いっぱい聞いてきたと思うんですけど、研究以外に他に興味のあることとか、趣味とかはありますか?
橋本 趣味は水族館や動物園に行くことです。あとは、猫を飼っていることもあり猫の写真を撮るのが好きです。とにかく生物全般が好きですね。
ぴく 海洋系のグッズをたくさん持っていらっしゃいますよね。初めてお会いしたN高研究部の合宿の時にクラゲのキーホルダーをつけていらっしゃった記憶があります。
橋本 はい、つけています(笑)。
ぴく クラゲ愛を感じます。合宿のときの発表で、たくさんの検定試験に合格しているという話を聞いた気がするんですけど、これまでどのような資格を取得してきたのか教えていただけますか。
橋本 漢検、英検、数学検定、生物分類技能検定、さかな検定とかですね。あと環境のことについても興味があったのでeco検定も取りました。高校の勉強の範囲からしか出ないんですけど、理科検定も取りましたね。他には潜水士の資格も取りました。
ぴく 潜水士の資格も持ってるんですね。
橋本 はい。コロナで学校が休校になったので、その間に検定試験の勉強をしていました。あ、そういえばその他に心理学の検定であるこころ検定も受験しました。
え〜と、あとは…ちょっと思い出せないです。
ぴく そんなに思い出せないほど持ってるんですか。いいな、言ってみたいな僕も。
何か目標があって検定試験を受験しているわけではなく、空いた時間で受けてみたという感じですか?
橋本 はい。勉強にもなるし、いいかなと思って。
ぴく なるほど。そういえば、生物や化学に興味を持ったきっかけは何だったんですか?
橋本 もともと犬と猫が家にいて、生き物が好きだったことがきっかけです。あと昆虫研究家の篠原かをりっていう方がはとこにあたるんですけど、Qさま!!やI LOVE みんなの動物園(2022年3月、嗚呼!!みんなの動物園に改名)などの番組に出演したり、本を出したりしてる人なんですよね。それで彼女にも影響を受けました。
ぴく なるほど。家に生物が好きになるような土壌があったんですね。
そこから特にクラゲが好きになったきっかけは何ですか?
橋本 小学生の時にプラクトンの採取イベントに参加したり、ドラマ「海月姫」を見たり、江ノ島水族館でクラゲの展示を見ていたことがクラゲを好きになったきっかけだったと思います。
ぴく やっぱり海月姫がお好きなんですね。インターネットでのハンドルネームを「くらげ姫」にされてるのを見て、そうなのかな…と思っていました
橋本 主人公はクラゲが好きな女の子っていう設定が好きです。この前も、全部通して視聴しました。
ぴく すごい。愛が伝わる。最近は研究以外だと、どのような活動をされているのでしょうか?
橋本 部活とかだと中学校2年生の頃、生物部に入っていました。今はもうやっていないんですけど、学校とは別に個人でボランティアにも参加していました。あと部活なのか怪しいですが、N高等学校の研究部に所属してます。
ぴく なるほど。そういえば研究でクラゲを飼育されてると思うんですが、どういった種類のクラゲを飼育されているんですか?
橋本 水族館から頂いたミズクラゲと江ノ島で見つけたギヤマンクラゲをを2匹飼っています。
ぴく へー。江の島にはフィールドワークじゃないですけど、調査しに行ったりとか、水族館見たりって感じなんですかね?
橋本 そうですね。江の島が行きやすいところにあるのでほぼ毎週のように行って、海でクラゲを捕まえています。
ぴく ありがとうございます。
ぴく 最後に進路についてと、将来の夢について教えてください。
橋本 進路はやっぱりクラゲの研究を続けていきたいので、海洋系の大学に行きたいなと思ってます。将来の夢は、まだ迷ってるんですけど、水族館で働くか大学の教授になりたいなぁと思っています。教授になるのが結構難しいっていう印象なのでまだ迷ってます。
ぴく なるほど。どんな形であれこれからも海洋分野に関わっていくおつもりなんですね。
本日のインタビューではクラゲのタンパク質の一つ、ムチンの研究をしている橋本さんにお話を伺いました。とてもおもしろかったです。ありがとうございました。
橋本 楽しかったです。ありがとうございました!