医療機器を開発するとともに、情報量が認知機能に与える影響を研究……!神吉佳佑さん研究インタビュー

医療機器の開発や、情報量が認知機能に与える影響に関する研究をされている神吉佳佑さん。研究の詳しい内容や特許取得まで神吉さんを突き動かした想い、今後の目標などについてインタビューを行いました。

なのめーとる。本日はよろしくお願いします。まずは、自己紹介をお願いします。

神吉 N高の神戸キャンパスに通っている、高校3年生の神吉佳佑です。活動内容は大きく2つあり、1つ目は医療機器の開発、2つ目は認知神経科学と認知心理学の分野の研究です。

なのめーとる。 最初に、医療機器の開発について詳しく教えてください。

神吉 錠剤排出装置を開発しており、高2の秋から冬頃に特許を取得※1 しました。現在は製品の改良に取り組んでいますが、受験や研究で手をつけていません。

中学生の頃、母が風邪をひいた際、朝昼晩で異なる薬を飲まなければならなかったことがありました。その際、市販の錠剤ケースに1錠ずつ入れる作業が非効率的だと感じました。それが、開発のきっかけです。

中学2年生の頃に一度3Dプリンターで作ってみましたが、当時は技術が足りなかったため、錠剤が砕けて粉末になってしまうなど、欠陥品でした。その後高校1年生のとき段階から改良を重ねた結果、必要な時に必要な錠剤を片手で取り出せるようになりました。構造部分は特許を取得したため、現在はより実用的にするため、ユーザビリティの向上に取り組んでいます。

※1:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7361443/15/ja

開発品の完成イメージ
画像:開発品の完成イメージ

なのめーとる。 錠剤を個別にケースに入れる作業が面倒だったことがきっかけとのことですが、アイデアはどこから思いついたのでしょうか。

神吉 ケースに入れる手間を省くことが着眼点でした。錠剤をケースに入れる手間をなくせば、外出先で蓋を開けて錠剤を出す必要がなくなります。そこで、お菓子のように片手で出せるようにすればいいと考えました。薬を詰める作業を観察した結果、一部のプロセスをなくせることに気づきました。

なのめーとる。 特許を取得されたとのことですが、その過程で苦労したことはありますか?

神吉 特許申請時は、自分が考えた技術を言葉で表現する能力が試されました。自分がその構造を把握していても、相手が理解できなければ、技術としては認められません。

学問でも「この証明をするには余白が足りない」などという話がありますが、優れた証明や理論があっても、それを説明する余裕がないケースがあります。思いついたこと自体は素晴らしいかもしれませんが、言葉で表現することができなければ、知恵として残せません。

そのため、表現することは重要です。

僕は特許出願にあたり、言葉で表現するという壁打ちを2〜3回繰り返し、やっと理解してもらうことができました。そこが一番大変でしたね。

なのめーとる。 大変な苦労をなさったんですね。そこまで神吉さんを突き動かした想いはありましたか?

神吉 他メディアでは主に母のために開発したことが注目され、「お母様想いの息子」と言われますが、それだけが大きなモチベーションではありませんでした。効率の悪さを改善したい、社会に貢献したいという想いは多少はあるものの、やりたいからやる、という好奇心が一番です。

なのめーとる。 ありがとうございます。神吉さんが純粋な好奇心にも突き動かされていたことが分かり、親近感を感じました。

窓際に座る神吉さん

なのめーとる。 もう1つの研究について教えてください。

神吉 認知神経科学と認知心理学の分野で、情報量が認知機能に与える影響について研究しています。現代ではデジタル端末が日常生活に不可欠なものとなり、脳は常に画面から大量の情報を受け取り、それを処理しています。この状態が長時間続くと、脳に可逆的な変化が起き、情報過多や「ブレインフォグ」と呼ばれる認知機能の低下が生じます。

僕は、このブレインフォグを軽減するための、認知機能への影響が少ない情報提示方法の開発を目指しています。現在は、東京大学の教育学研究科と共同で研究を進めており、研究倫理審査※2 に向けて準備中です。

※2:「研究倫理審査」とは、主に人を対象とする研究課題を進行する上で求められる、大学などの研究機関に設置されている「研究倫理審査委員会」による審査のこと。研究計画書などの書類を提出し、委員会の認定を経ることで、人を対象にした研究を遂行することができる。倫理審査を受けていないと、学術誌への論文投稿や学会発表ができない場合が多い。

なのめーとる。 ブレインフォグを解消する別の情報媒体への移行が最終ゴールなのですか?

神吉 そうですね。最終的にはブレインフォグを解消する媒体を作りたいと考えています。

まず「なぜ解決しないのか」という点ですが、ブレインフォグを解決するとなると、生物学的あるいは化学的な要素が強くなってくるため、中長期的に研究をする必要があると思います。その場合は、10年、20年という年月をかけてやっと解明できるぐらいのものだと思うのですが、今の時点ではそこまでしたいとは考えていません。

自分は人生をかけて研究したいというよりは、あくまでも今やりたいから研究しているというニュアンスが強いからです。

やりたいからやるという大枠の下で、達成できそうな目標は、ブレインフォグの生じやすいUIや情報表示の方法の検討をつけて、それに対する打開策として、アプリケーションや何らかのUIを工夫したものを提供することだと考えました。課題解決にはなりますし、ギリギリ手が届く方法だと思っています。

そのため現在は、情報量が認知機能に与える影響について研究しています。近年、スマートフォンやパソコンの利用時間が長くなり、脳に絶えず情報が流れ込むことで、処理が追いつかずに認知機能が低下しています。しかし、これらの機器の使用の中止は、現実的な解決方法ではありません。使用を禁止せずに、上手に付き合うことが重要になります。

これらの背景を踏まえて、認知機能に悪影響を与えない仕組みを検討する研究を行っています。

なのめーとる。 研究の具体的な内容を教えてください。

神吉 当初は、実際に生体指標を使用し、脳の神経を測定する研究を行う予定でした。被験者に画面を見せ、特定の情報を与えて、与えた情報とその影響を分析するものです。しかし、機材の使用に協力していただける研究機関がなかなか見つからなかったため、神経を見るのは一旦やめることにしました。

そこで、情報を提示した後に課題を行ってもらい、その成績から、与えた情報による影響を検討する研究方法に変更しました。この方法で、情報の表示方法や情報量、視覚的刺激が与える影響についてある程度把握していこうと考えています。

ただし、まだ研究計画の改善中です。

hiyo 当初計画していた神経を観察する手法を実施できなかったとのことでしたが、具体的にはどのような計画だったのでしょうか?

神吉 脳の血流変化を調べるNIRS(Near-infrared spectroscopy:近赤外線分光法)を用いた計測や、脳の電気信号を調べるEEG(ElectroEncephaloGraphy:脳波検査)により、脳活動を計測する予定でした。脳が活動するとなんらかの信号が発生しますが、これらの手段を用いて計測すると、直接脳活動の変化を見ることができます。脳活動の変化を直接観察することで、より明確に脳の動きを把握できると考えていました。しかし、様々な理由から、高校生が機材を借りることは難しく、研究計画を変更しました。

なのめーとる。 ブレインフォグの抑制についての研究は、分野としてはどのような枠組みになりますか?

神吉 認知神経科学と認知心理学の2つに跨っています。現時点での自分の研究では神経を測定していないため、認知心理学に近いですが、最終的には認知神経科学に収める予定です。

なのめーとる。 2つの学問分野の違いを教えてください。

神吉 認知神経科学と認知心理学は、被験者が行う内容はほとんど同じですが、観察方法が異なります。認知神経科学では脳波計やMRIなどの神経学的手法で脳を観察しますが、認知心理学では、心理学的観点から検討します。

hiyo 最終的に認知神経科学に戻す予定とのことでしたが、どのように進められる予定でしょうか?

神吉 共同研究が決まった後も様々な大学にコンタクトをとりましたが、機材の貸し出しは難しいとの回答でした。そのため、自身が大学に進学した後に進学した先の機材を利用するのが得策であると判断しました。現在は進学先として、学部生のうちから機材を利用できる大学・研究室を検討しています。

なのめーとる。 神吉さんの研究のきっかけを教えてください。

神吉 中学生の頃、スマートフォンの利用時間が増えた後に、定期テストの成績が急落したことがありました。テストの問題を解き直してみたところ、理解はできているものの、ケアレスミスが増えていると感じました。その経験から、デジタル機器の使用が脳の働きに悪影響を与えるのではないかと疑問を持ったことがそもそものきっかけです。

その後、スマートフォンを持たずに生活する期間を作りましたが、その時期はケアレスミスが減っているような気がしました。しかし、スマートフォンを持たないことは、根本的な解決にはなりません。そこで、もっと詳しく研究したいと思い、研究を始めました。

なのめーとる。 それ以前からその分野に興味はありましたか?

神吉 それまではその分野には興味がありませんでした。自分の経験から、スマホの使用が成績の低下に影響していることを実感し、自分が快適にスマホと共存する方法を探った結果、興味を持ちました。

砂浜の神吉さん

なのめーとる。 ありがとうございます。次に、神吉さんが研究をしていて、面白いと感じるところを教えてください。

神吉 研究をしている人達の中には、池辺さんのように、とても熱烈に研究対象を愛して「これはここがすごいんです!」と語る人が一定数います。しかし僕はそのようなタイプではなく、どちらかというとシンプルになんでそうなるんだろうという疑問を、淡々と潰していきたい派なんです。

そのため、研究においてここがとても面白いという点は思いつきませんが、自分が感じた疑問を一般化していく過程は面白いと感じています。

脳の話に限らず、人が感じる疑問には、既に一般化されてるものと一般化されてないものがあると思っています。

例えば、英単語が覚えられない、どうしてかという疑問はある程度一般化されており、それに対して、効果的な覚え方などの解決策が共有されています。もっとも、その解決策が本当に自分に合っているかは分かりません。

そのような、疑問を感じた本人にしか突き詰められない領域が、どこの分野にもあると思います。だからこそ、ある疑問を自分が感じた時にどう一般化するか、例えば僕の「成績が下がったけど、スマホを手放したら成績が上がった、なんでだろう」という疑問と解決策をいかに一般化していくというかという点に面白みを感じます。これは、研究全般に言えることだと思います。

紅葉の中の神吉さん

なのめーとる。 ありがとうございます。人により、研究対象に対する熱量に差があるという点に共感しました。研究を進める上で、苦労されていることを教えてください。

神吉 本当に苦労の連続ですが、一番苦労しているのは、自分よりレベルの高い人との面談やミーティングの中で、自分が伝えたいことを100%伝えることが難しい点です。

自分自身も、疑問を解消しきれていない状況で説明していることが多いので、相手にもその疑問が伝わり、質問されることが多いです。その質問になかなか適切に答えられないんですよね。

質問内容が難しいため、自分がそれを打ち返すのにとても時間がかかりますし、自分の研究を見つめる中で視野が狭くなってるというところもあります。

自分の研究を自分が一番わかってるかというと、意外とそうでもないかもしれないっていうことに最近気づきました。ちゃんと自分の研究を見つめて、誰にでも伝えられるようにするっていうことが結構難しいなと感じ、それに一番苦戦してる段階です。

なのめーとる。 確かに、自分の研究を自分で深く理解することは、簡単に思えますが難しいですよね。次に、先程も少し伺いましたが、将来の夢や目標を教えてください。

神吉 脳の認知負荷を軽減したUIやアプリケーションなどを開発したいと思っています。

現状、情報がたくさんある状態で生きているので、その負担を減らせるものを作りたいというのが、直近で一番大きい目標です。

なのめーとる。 研究以外の趣味はありますか?

神吉 バイオハザードとスプラトゥーンが好きです。

普段バイオハザードをやっていても、あまり怖いと感じないタイプなのですが、なんでバイオハザードのゾンビってこんなキモいんだと思いながら、キモいっていうのは抽象的な概念だけど、いくつかの要素が集まってて、その要素ってなんだろうと考え、結局研究の思考に戻っていくこともあります。

また、スプラトゥーンでは、様々な武器を使い分けることができます。そして、この武器が自分は使いやすいという適正や、あるいはこの武器を使ってて調子がいいタイミングや悪いタイミングがあります。

それらを考えて、あの時は調子が良かったのに、どうして今は調子が悪いんだというところを疑問に感じ、結局研究の方に思考が戻っていくこともあります。

本を片手に佇む神吉さん

なのめーとる。わかります。日常生活と研究的な思考活動の往復が楽しいということですよね。それでは最後に、Larva06の読者へメッセージをお願いします。

神吉 研究は敷居が高いように見えますが、意外と身近なものだと思います。僕やなのめーとる。さんが所属しているN/S高研究部※3 などは、側から見たら難しいことやっているように思えるかもしれません。しかし、入ってみたら、自分自身も難しいことに取り組んでいる立場になります。ぜひ行動してみてください。

※3:正式名称は「学校法人角川ドワンゴ学園 N/S高等学校 研究部」。N/S高の生徒以外も所属可能である、学術研究を志す中高生をサポートするコミュニティ。https://nnn.ed.jp/about/club/kenkyubu/

なのめーとる。 本日はお忙しい中、ありがとうございました。

神吉 ありがとうございました。