アクアポニックス初の微生物肥料を作りたい!鈴木花梨さん研究インタビュー
次世代の農業として期待されている「アクアポニックス」の生態系に、微生物を組み込む研究をしている鈴木花梨さん。鈴木さんが行っている研究や研究対象であるアクアポニックス、研究のきっかけについてインタビューを行いました。
ぴく それでは最初に自己紹介をお願いします。
鈴木 高校2年※1 の鈴木花梨です。私は「アクアポニックス」の研究をしています。
アクアポニックスとは、水耕栽培と魚の養殖を同時に行い、循環させることにより、両方の生産を可能にするもので、これからを各国で期待されている次世代の農業です。
※1:学年は取材当時。
ぴく 一石二鳥の農水業なんですね。具体的には、アクアポニックスのどのような点を研究されているんでしょうか?
鈴木 私は、アクアポニックス初の微生物肥料の作製を目標に研究しています。
まず、今のアクアポニックスでは化学肥料を使用することはできません。使用した場合、魚に悪影響を及ぼしてしまうからです。また、私はアクアポニックスの、自然由来のものを活用することで「小さな地球」を作るという良さを生かしたいと思っています。
そのため、本来の目的に合わせた自然由来の肥料を与えることでより効率よく、より多く生産ができるような、他の生き物も住みやすいかたちにできたらいいなと思っています。
ぴく そもそもなんですが、アクアポニックスというのはどういった機能をもっているんでしょうか?
鈴木 アクアポニックスは、魚の排出物に含まれるアンモニアなどを微生物が分解し毒性の少ない硝酸塩に変え(以下「硝化作用※2 」)、植物の成長促進を行う機能を持ったものです。
毒性の低い硝酸塩も蓄積されると生物にとって有害となるため、水槽の場合は定期的に水を換えて、硝酸塩を減らします。
水を循環させるアクアポニックスでは、硝化作用が起こり、毒素が水中に貯まらない仕組みとなっています。そのため、持続的な使用が可能です。
※2:「硝化作用」とは、微生物のはたらきにより、アンモニアから亜硝酸や硝酸が生じる作用のこと。
ぴく 魚にとってアンモニアや硝酸塩というのは有毒なんですね。では逆に植物にとっては、それらはどういった存在なんでしょう?
鈴木 硝酸塩は植物にとっては非常に良い栄養です。 そのため、硝酸塩を植物に吸収させることで、水換えの回数も減らし、吸収されたり蒸散したりしてしまう水の量だけを増やしていくことで、うまくバランスのとれた生態系を作ることができます。
その方法にもいくつか種類があります。例えば京都大学で行われている微生物肥料を用いた研究では、微生物が分解するもととなるものを入れることで、微生物により分解を行わせ、硝酸塩を増やして吸収させていくという方法が使われています。また、植物プランクトンを用いた液体肥料を使う方法もあります。
ぴく 今は、生きた微生物をアクアポニックスの生態系の中に組み込むための方法を考えていらっしゃるということでしょうか。
鈴木 はい。現在は、ミドリムシをアクアポニックスに入れることが可能かどうかを実験しています。ミドリムシとメダカが高密度の状態で共存できるかという問題があるので、ミドリムシの濃度を変えて、メダカにどのような影響を及ぼすか調べています。
ぴく 普段はどのような活動をされていますか?
鈴木 自宅では、簡易的な小型のアクアポニックスを回しています。学校では、水槽の上にバケツではなくかごのようなものを置いて、ハイドロボールを敷いてバジルを植えています。
ぴく 実験は、どこで行っているのですか?
鈴木 去年は東大GSC(グローバルサイエンスキャンパス)※3 プログラムに参加しました。今は、GSCで1年間取り組んできた実験企画などをもとに、学校のラボで実験しています。
※3:GSC(グローバルサイエンスキャンパス)とは、大学が開催する、科学に興味を持つ高校生が科学や研究を学ぶことができるプログラムのこと。
ぴく 海外のプログラムにも参加されたそうですね。
鈴木 はい、Global Link Singaporeに参加しました。Global Link Singaporeでは部屋を割り当てられて、審査員の前でプレゼンテーションを行い、質疑応答をしました。スライドも英語です。代表に選ばれた人は全員の前でオーラルプレゼンテーションをして、最後に要点をまとめたサマリーを作成しました。また、交流会も行いました。英語は難しかったですが、分野が広くて、面白かったです。
ぴく アクアポニックスは分野としては何にあたるんでしょうか?
鈴木 農業なので農学の方に入るため、大会等に出るときの申請では農学を選択することが多いです。しかし微生物の循環や植物学も関わっているため、分野の選択は難しいところです。
ぴく ありがとうございます。アクアポニックスの研究を始めたきっかけは何でしたか?
鈴木 私は小さい頃から家庭菜園が大好きで、家でキュウリやゴーヤなどの野菜を育てていました。幼い頃から自分で花を摘んで、雌しべと雄しべで人工授粉をしたことが思い出に残っています。また、私の家庭では特に食事が大切にされており、様々な栄養に関することも教わってきました。
私の学校では高校1年生の段階で何の研究をするか選択するのですが、その際に、それらの経験が自然と影響したと思っています。
私たちの分野の研究には、wetとdryの大きく2種類があるとされています。wetと呼ばれる研究は、生物学的な実験を行う研究のことです。dryと呼ばれる研究は、遺伝子解析などといった、コンピュータ等を用いた解析や分析を行う研究のことです。
そのように研究と言っても幅広いですが、私はそれまでの経験から、wetに興味を持っていたため、wetを選びました。
ただ、高1の最初の段階では私はアクアポニックスのことを知りませんでした。
そのため、最初は別の研究をしていましたが、GSCに応募する前に、より自分が興味が持てる研究テーマを探そうと思いました。
そこで、色々と調べたり、テレビを観たりする中で、アクアポニックスを見かけました。調べてみたら面白いと感じ、課題もたくさんあることが分かったため、テーマにしてみました。
ぴく アクアポニックスは、どのようにお知りになったのですか?
鈴木 アクアポニックスは、食糧生産に関する調査の中で知りました。番組と番組の間の5分か10分の枠で、アクアポニックスが取り上げられていた様子が今も印象に残っています。ただ、それだけが理由で研究テーマに選んだ訳ではありません。
模擬国連※4 に参加したことも、アクアポニックスを研究テーマに選んだきっかけの一つです。
※4:模擬国連とは、学生が各国の大使になりきり、模擬的に国連の会議を行う活動のこと。
ぴく 高校1年生の頃に、模擬国連でソマリアの大使をされたとのことでしたね。
鈴木 ソマリアは発展途上国で、食糧問題を抱えています。現在も飢餓に陥っている地域が多くあります。日本と大きく違う環境に衝撃を受けました。気候変動が原因だと考え、何か解決できるものがあればいいなと思い、アクアポニックスに行き着きました。
ぴく なるほど。ご自身の興味関心と模擬国連での経験の両方が、研究テーマにつながっているんですね。
ご家庭でも実験をしていたと聞いていますが、昔から科学に興味があったのですか?
鈴木 母によると、ずっと図鑑を見ているような子だったそうです。確かに植物や様々な分野の図鑑を読んでいましたが、小説も好きでした。文芸的な本も大好きだったので、私の中ではあまり科学的な子どもであった印象はありません。
ぴく 小説をよく読まれるのですね。
鈴木 はい。辻村深月さんが大好きで、彼女の作品はたくさん読んできました。
ぴく 普段はどのような毎日を過ごしていらっしゃるのでしょうか?
鈴木 学校では、硬式テニス部で部長を務めています。部活動をして研究をして、学園祭実行委員会の活動もしているので、お昼ご飯を食べる時間がありません。昼休みがあるのですが、その時間にラボを使って研究をして、それ以外の休み時間にお昼ご飯を食べるという日もありました。
ぴく 研究だけでなく、部活動や委員会活動などもされているんですね。すごいです。テニスはご自身にとってどのような位置付けなのでしょうか?
鈴木 研究は楽しいですが、生き物を扱っているため、生き物が死んでしまうなど、上手くいかないことがあります。そのようなストレスを、テニスで解消しているところもあります。また、テニス部のメンバーと仲が良いので、テニスがあってよかったです。
ぴく アクアポニックスの研究の中で、特に好きなところを教えてください。
鈴木 作物が大きくなったり、メダカが元気よく泳いでいたりするのを見ると、かわいいなと思います。また、私たちの日常に身近なテーマなので、より親身に感じられます。0から1を作るものと1から10を作るものがありますが、私は1から10を作るのが好きです。
ぴく アクアポニックスの管理は大変ですか?
鈴木 確立させるまでは大変ですが、確立させてからは楽です。メダカを飼うと水を買い足さないといけませんが、アクアポニックスは水が循環しているので、餌と水を与えれば植物と魚の両方が育ちます。
ぴく アクアポニックスを確立させるためにどのようなことをされてきましたか?
鈴木 まず、硝化作用を安定させるために、水槽内の微生物がうまく作用するようにしました。また、栽培層で酸素が行き渡るようにすることで、根腐れを防ぎ、水の品質を管理しました。水質が悪くなると、すべて水が循環するので、どこかで不具合が起きた場合、システム全体に影響が出てしまいます。そのため、水質の管理は本当に重要です。
ぴく 循環を保つのが難しいのですね。
鈴木 そうですね。ポンプで水を汲み上げられなかったら水耕栽培が枯れてしまいますし、水がうまく戻らなかったら水槽の水が減ってしまいます。
ぴく アクアポニックス研究の中で苦労していることを教えてください。
鈴木 研究の苦労の一つは、生物が死んでしまうことです。例えば、自分が育てたメダカが死んでしまったり、リーフレタスが枯れてしまったりすると、悲しくなります。
また、スケジュールの問題も大変です。生物の成長速度や変化を予測するのは難しく、アクアポニックスが学校にあるので四六時中は見ていられません。そのため、変化に気づきにくかったり、夜間の変化がわからなかったりします。定点カメラをつけようかとも考えていますが、まだつけていないので、自分が知らないところで生物が死んでしまったり変化が起きてしまったりすると、理由の解明が難しいです。
ぴく 今後の展望を教えてください。
鈴木 研究を始めたばかりなので、まだいろいろできていませんが、例えば今は、ミドリムシの濃度を変えることで条件を変えることを試みています。また、これからクロレラや微生物の違いによる影響や、肥料に使用されている微生物の作用に着目するなど、条件を変えて研究を進めていきたいと考えています。
ぴく 実験を行う上で、条件を厳密に変えていくことが重要だと思いますが、気をつけていることはありますか?
鈴木 まず、メダカの数、水の量、気温を一定に保つようにしています。私は学校のカルチャーラボを使っているため、温度は一定になり、気温の問題はあまり気を配る必要はありません。しかし、水槽の水の蒸散による濃度変化を避けるために、入れる水の量を固定する点などは、今後も徹底していきたいと思っています。
ぴく 今後の進路は農学系を考えられているのでしょうか?
鈴木 少し悩んでいます。研究がすごく楽しいので続けたいという思いはありますが、他の道にも興味があります。
私は、研究にも、かたちは色々あると考えています。
研究者のように研究するというかたちもあれば、ただ自分の気になることを追求して、小規模でもずっと続けていくかたちももあると思います。
そのため、研究者にならずとも、他に自分の興味があることと探究活動を両立していきたいと考えています。
ぴくせる 鈴木さんの将来の夢を教えてください。
鈴木 今は多くの分野に興味があるのではっきりとした夢は決まっていませんが、研究者をはじめとした自分のスキルを使って人を助けることに関心があります。
夢は定まっていませんが、他分野に対する広い好奇心を持つことができているのは興味を追求できた今までの環境のおかげだと思っているので後悔はしていません。
ぴく 「後悔はしていない」と思えるのは素敵ですね。
鈴木 ありがとうございます。
後から振り返ると、数多くの辛かったけど頑張った経験は、私なりの青春だったなと思います。修学旅行でも夜遅くまで遊んでいて、電話で「どうしようどうしよう」と言いながら英語のプレゼンテーションの準備をしていました。初めてだったので、皆緊張していましたが、研究を頑張っている仲間ならではの楽しさや青春があったのではないかと思います。
ぴく 最後にLarva06の読者にメッセージをお願いします。
鈴木 人と人の出会いは、どこで繋がるかわからないので、一期一会だなと思います。自分の小さな興味がきっかけでも、一つ行動を起こすことで、いろんな人と繋がることができ、今こうしてここに来て喋ることができています。何か一歩行動してみることと、自分の興味を捨てないこと、興味を持ち続けることは、自分の人生を大きく変えると思います。
ぴく 本日はお忙しい中インタビューに応じていただき、誠にありがとうございました。
鈴木 ありがとうございました。