数理モデルを駆使し、ウイルスを探究…?!内藤煌瑛さん研究インタビュー

エボラウイルスへの興味をきっかけに、数理モデルをウイルス学に応用する研究を行っている高校2年生の内藤煌瑛さん。内藤さんが行っている研究の内容や研究のきっかけ、分野の魅力などについてインタビューを行いました。

注)菌類に詳しい者がインタビューを担当した結果、読解難易度が高くなりました。お時間に余裕がない方は、(大変恐縮ですが)雰囲気でお楽しみください。内容を理解したい人や詳しい内容に興味がある方は、ぜひ注釈もご覧ください。

菌の人 まずは、行っている研究について教えてください。

内藤 僕は、ウイルス学という分野で研究を行っています。

僕が特に研究しているのは、フィロウイルス※1 という、アフリカ等で2014年とかに大ブレイクした、危険で致死率が最高で90%を超えるウイルスです。
このウイルスと類縁のウイルスが海の中で発見※2 されたため、そのウイルスがどのような特性やウイルス学的な特徴を持っているかを、「バイオインフォマティックス」と呼ばれる、コンピューターや数学を用いた実験室を使わない解析・分析をしています。

あと、もうそろそろ論文が出るのでお話しすると、少し前に世界で流行ったサル痘(エムポックス)というウイルスが日本に入ったときに、どのように感染が広がっていくかなどを研究していました。

※1: フィロウイルスは、一本鎖RNAウイルスの一種。
※2:Shi MらThe evolutionary history of vertebrate RNA viruses. Nature. 2018 Apr;556(7700):197-202. doi: 10.1038/s41586-018-0012-7. Epub 2018 Apr 4. Erratum in: Nature. 2018 May 16;557(7706):274. doi: 10.1038/s41586-018-0082-6. PMID: 29618817.

菌の人 行っている研究の目的や面白いところはどういうところにありますか?

内藤 まず、ウイルスはヒトに感染するウイルスと、主にその他を指す環境ウイルスに大別されます。僕は環境ウイルス※3 にはあまり興味がなくて、小学校の時からエボラウイルス※4 等を勉強していた人間なんです。また、やっぱり理論でやれる分野がいいなと思って、いろいろ勉強していった中で、常微分方程式っていう方程式を使うとどうやら現象を記述できるということに気づいて、 ウイルスの数理モデル※5 をちゃんとやり始めました。
ウイルスの数理モデルが普通の数理モデルと異なる点として、 感染が起きると、数理モデルのダイナミクス※6 がだいぶ変わってくるところがあります。

今やっている研究であるサル痘について話すと、サル痘が出始めた当時は、日本でどれぐらいの感染者がいるのか記録されていませんでした。なので、もし日本にサル痘が来たらどれくらい広がるか知りたいなって思ったのがこの研究を始めたきっかけです。
また、ウイルスは数理モデルを使えばゴリ押しで研究できるっていうところが面白いところだと思います。

感染症などの書籍の写真

※3:環境ウイルスとは、主にヒトに感染しないウイルスのことを指す。
※4:エボラウイルスとは、致死率の高い「エボラ出血熱」の原因となるウイルスである。
※5:数理モデルとは、数式を用いて現象を記述したモデルのこと。また、数式を用いて現象を説明する分野のこと。
※6:ダイナミクスとは、環境(ヒトや空間など)内におけるウイルスの挙動のこと。

菌の人 研究で苦労したところや、大変だったところはありますか?

内藤 今ちょうど苦労してるところなんですけど、例えば感染者数等は不安定なものなので、自分の出したデータがちょっとでも遅れると数が変わってしまうんです。それに合わせるのがめんどくさいので、数理モデルの感染係数や回復率等の様々なパラメータを推定したり、いろんな論文を引っ張ってきたりするんですよ。
そんな風に解析する中でも「あれ?ここのデータと一致しないぞ」というのが多いんです。現実に落とし込めてない感が半端ないんです。でも、いじったらちゃんとデータが出たりするので、何が正しいのかわからないっていうのが一つ悩みの種です。 実験とかだったらもう実データ見れば明らかじゃないですか。しかし数理モデルの場合は、パラメータの推定がうまくいかなかったら、自分の作った数式にミスがあるのかとか、うまく再現できてないんじゃないかとか、 そういうのを考えて別の項を数理モデルの方程式に追加して、また全然違うグラフが出てくるっていうのを繰り返すので、そこが大変です。

菌の人 ありがとうございます。

内藤さんがパソコンの前に座っている写真

菌の人 さっきの話と少し被ってしまうんですけれども、研究を始めたきっかけを詳しく聞かせてください。

内藤 研究を始めたきっかけは、小学2年生の終わりから3年生のはじめ頃に、エボラウイルスのニュースがテレビで放送されていたことです。エボラウイルスを電子顕微鏡で見た画像が、たくさん取り上げられてるわけですよ。あれ見て「もうめちゃめちゃ綺麗じゃん!」と思いました。
アデノウイルス等の正十二面体のカプシド※7 で覆われてるようなウイルスも、幾何学模様で綺麗だなと思いますが、僕は細長いものが大好きで、ひも状のものに興味をそそられるタイプだったんです。

最初は「エボラっていうのがいるんだ」ぐらいに感じていました。当時は普通の風邪とインフルエンザの見分けも勘で行っていて、「何ですかインフルって?」という感じのレベルでした。それでも、すごく気になったんです。

親に買ってもらった図鑑を見て、どうやらウイルスは他にもいっぱいあるようだと知りました。 それをどんどん見ていくうちに、こういうウイルスもいる、こういうウイルスもいるとどんどん知って、ひとつずつを調べるようになりました。

実は、分析生物学とかウイルス学の本は、最初はあまり読んでいませんでした。
いきなり調べようと思い、一番調べたかったエボラに関する論文を一番最初に手にしました。それが北海道大学の高田礼人先生が1997年に書かれた論文 ※8 で、これは後にウイルストラッキングって呼ばれるところについて研究した論文です。しかし、当然英語で書かれているため、何もわかんないわけです。
それを一単語ずつ全部Google翻訳に入れてました。当時Google翻訳はそんなに発展してなくて、文章で入れると壊れたんですよ。だから、一単語ずつ入れて、隣に英語の文法書を置きながら、文章にしていく作業を一人で 6-7時間ぐらいずっとやって、やっとその一つの論文の文章を完成させたんです。当然理解なんかできるわけないので、そこから今度は専門用語を調べていかなきゃいけなかったので、8時間ぐらいかけて一通り調べて……といった感じで読み進めました。
一回そのように苦しむと、こういう分野って基本的に本を読まなくても大体の内容は入ってるから、論文を読めちゃうんですよ。
それでどんどんいろんな論文を読んでいって、 そこからは塾の先生に貰った『標準微生物学』っていう本に移りました。その本の後ろの方にあるウイルス学総論っていうのと各論っていうところで、総論をバーッと全部読んで、 各論に入ったときにいっぱいウイルスがいるんで、好きなウイルスを1日1ウイルス単位で全部論文ベースで調べていった。本の内容って少なすぎるんですよね。

※7:カプシドとは、タンパク質でできたウイルスの殻のこと。
※8:Takada Aら A system for functional analysis of Ebola virus glycoprotein. Proc Natl Acad Sci U S A. 1997 Dec 23;94(26):14764-9. doi: 10.1073/pnas.94.26.14764. PMID: 9405687; PMCID: PMC25111.

菌の人 そうですよね、そういう微生物学のまとめられてる本ってだいぶ少ないですよね。

内藤 そうなんですよ! その話ができる人に今まであまり会ってこなかったので、よかった。

菌の人 分野の好きなところや気に入っているところはありますか?

内藤 まずあらかじめ言っておくと、僕はウイルス学っていう学問分野がしっかりあるわけではないと思っています。なぜなら、ウイルス学は、様々な生物学の分野を組み合わせてウイルスについて説いた分野なので、やっていることは結局分子生物学や構造生物学、生化学、遺伝学などの組み合わせだからです。ウイルスをその対象にしているだけなんです。

なので一つ言えるのは、広く勉強しないとウイルス学はできないということです。 どうしてもやっぱりいろんな生物の分野をやる必要がある。なので一つに収まりたくない人とかには、マジでおすすめです。ウイルス学をやってると博識感が出るんですよ。 僕はそこが好きなんですよね。その学問体系が決まってないから、ウイルスについてであれば何やってもウイルス学って言えちゃうんで。 やっぱりそこはね楽しいですよ。学問としてはめちゃめちゃ面白い。

あとは数理モデルです。 数理モデルのいいところは、例えば常微分方程式とか偏微分方程式とかっていう分野を1回でも勉強すれば、もうそれを使って自分の好きなものに全部応用できるところです。 僕の場合はウイルスの流れを見ることが好きなので、最近は実は海の中でのカキに感染するウイルスの伝播みたいなのをその数理モデルで解こうとしてます。流体力学的に、ウイルスがどうやって海の中で発散したり伝播したりするかっていうのをやりたいなぁと思っています。
数理モデルの話に戻ると、数理モデルってもちろん経済でも使いますし、文系でも結構使ってる方がいるんですよ。心理学でも使います。 だからやっぱり応用の幅がめちゃめちゃ広い。 僕は物理とウイルスを組み合わせてますけど、数理モデルを使うと、全然違う分野ができるんです。だからすごく広い分野を扱うことができるんですよね。いろんなところに応用できます。数理モデルのそういうところが好きです。

菌の人 なるほど、素敵ですね。

内藤さんの研究に関するメモが書かれたノートの写真

菌の人 研究以外に、趣味はありますか?

内藤 ボカロが結構好きで、去年「マジカルミライ」という初音ミクのイベントに行きました。あとはアニメを観るのも好きで、『CLANNAD』とか『AIR』っていうアニメが好きですね。Keyっていうゲーム会社がありまして、そこの作ったゲームを原作とするアニメが好きです。
あとは、数学の勉強をしているのが楽しいので、なんだかんだ勉強も趣味みたいなものですね。
ボカロには、『DIVELA』さんの、 2018年のマジカルミライのグランプリ曲として採用された『METEOR』っていう曲がきっかけでハマりました。 ポピュラーなところだと『Neru』さんとか『DECO*27』さんとかも好きですが、 マイナーなところだと、ちょっと古めの曲とかも好きですね(笑)。

菌の人 ありがとうございます。今後の目標や、将来の夢を教えてください。

内藤 ぴくくん(Larva06創設者)から聞いているかもしれませんが、今仲間内でRe:coopという事業を始めようとしていて、中高生の研究者をサポートする塾のようなものを作ろうとしています。それをひとまず進めようかなと思ってます。中高生でも自由に研究できるような社会を作りたいという想いがあります。
あとはもう研究者の性ですけど、とりあえず好きな分野を研究するっていうのが目先の目標です。
あと、進路の話だと、僕は危険なウイルスが大好きなので獣医学部に入りたいです。 獣医学部で、危険なウイルスを発見して研究しまくりたい。ウイルスのことを研究するためには、やっぱり臨床に出るのが大事だからというのも理由です。

内藤さんが研究室で白衣を着て実験している写真

菌の人 では、最後に、Larva06の読者へメッセージをお願いします。

内藤 僕みたいに研究とか、科学的なことが好きだったら、自分のできる範囲を考えて続けてみるのはありだと思います。大学とかが提供しているようなプログラムに参加しなくても、自分でやっている中で勉強していけば、これは自分でできないとかっていうのは多分気づくと思います。それをもとに、好きなように研究を自分で一回やってみて、詰まったら、その分野の先生に自分で連絡を取るっていうのが多分一番速いので、それをお勧めします。

皆さん、研究ライフを楽しみましょう。伝えたいことはこれ以外の何物でもありません。

菌の人 今日はとても楽しかったです。ありがとうございました。

内藤 こちらこそありがとうございました。